コスト意識で育てる学生の能動性

 「B」という行動へと導きたい時、必ずしも「Bしなさい。」と言うだけが教育の方法ではありません。時には、「Aを考えてみたら。」と言うことで、自ずと「B」という行動が促されることがあります。つい最近、このことを再認識させられる場面がありました。

 

 「予算案を提出してください。その際、他の人が見てもわかるように、内訳となぜそれが必要かを明示してください。」

 

 これは、『総合表現演習』という科目での指示です。この科目では、舞台や大きな教室でミュージカルやオペレッタ、子ども向けのコンサートや遊びの空間の創造に取り組んでいます。成果物としての表現を創るということももちろんですが、その成果をどのように制作していくかという過程も大切な学びの一つとなっています。

 いつもは、「いつまでに何をするかの計画を立てなさい。」という指示でしたが、今年は、先述の「予算案を提出してください。」という指示に変えてみました。すると、これまでは曖昧だった計画の立て方が、金銭的な計画だけでなく、行動の計画まで具体的に立案されるようになってきたのです。

 

 まさしく「Bという行動をAという指示が導いた」例と言えるでしょう。学生にとっては、「これだけの予算があるから、この範囲内で計画しなさい。」よりも、「○○をするためには、××円必要だから、それを他の学生にわかるように提示しなさい。」という指示の方が分かりやすかったのでしょう。そして、この指示は、自分以外の人がどのような活動をしていて、どのくらいの経費が必要なのかという関心へと繋がり、結果として、自然な連携関係が築かれるようになりました。

 

 これは、予想しなかった成果です。実は、昨年度までは予算の管理については、教員が担い、学生が関与することはありませんでした。そのためか、「こんな予算額じゃ○○は作れるわけがない。」「他の××という班は、こんなにもらってるのに」などという声も少なからず聞かれました。しかし、予算の立案というコスト感覚を呼び起こすことによって、学生の中にコスト以上の感覚が芽生え、「全体ではこれだけの費用がかかるんだ。」「経費には上限があるから、まずはこの分野を重点的に予算化しよう。」という声が聞かれるようになったのです。

 

 まぁ、当たり前といえば当たり前ですが、経費はあればあるにこしたことはありません。ただ、「これをするためにこれだけの経費が必要」という考え方を他人に理解してもらうことは、仕事をする上でも、納税者としても大切なことだと改めて実感しました。

 

 これは、単なる節約意識を育てるということとは違います。必要な経費とは何か、どのように配分するかという、正解が一つではない問に対して取り組むことに慣れてもらうことを意味します。

 

 実は、この方法を私の子どもたちにも、と考え、お小遣い制から、必要経費制にしようとしたら、「毎回そんな面倒くさいことは嫌だ〜」と一蹴されてしまいました。家庭のお小遣いは、やはり定額制の方が良さそうですね。